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2025

ファンタジスタ~アートとデザインで切り拓く未来のキャンバス~ー自然のカタチが創造のヒント!「森にあるもの」で生き物をつくろう! ー

ビジュアルアーツ

2025/12/12

ファンタジスタ~アートとデザインで切り拓く未来のキャンバス~

ー自然のカタチが創造のヒント!「森にあるもの」で生き物をつくろう! ー

実施概要
ワークショップをベースにしたアート制作と展示発表を通じて、自然の原理やモノの仕組みを学び考える力を育てるプログラム「ファンタジスタ」。廃棄物を工夫してデザインし、新たな価値を付与するアップサイクルの体験を重ねていきます。「Poiesis / 全て自然物でつくる」中高生コースでは、身の周りの自然の中から集めてきた素材で、「生き物」の彫像づくりを5日間にわたり実践。最後は渋谷ヒカリエ8/COURTで、全ての参加者の制作物を展示しました。森と生き物の関わりを体験しながら学んだ3日目と、作品発表・展示会に向けて最後の制作日となった5日目の様子をお届けします。

■取材日
11月1日(土)「Poiesis / 全て自然物でつくる」中高生コースプログラム3日目
11月3日(月・祝)「Poiesis / 全て自然物でつくる」中高生コースプログラム5日目
※11月7日(金)~9日(日) 作品発表・展示会  渋谷ヒカリエ8/COURT

■取材場所
高尾の森わくわくビレッジ

ノコギリを手に森の中へ!
森と生き物のつながりを、“リアル”に感じるフィールドワーク

「Poiesis / 全て自然物でつくる」の舞台は、豊かな自然に囲まれた「高尾の森わくわくビレッジ」。都立高校の建物をそのまま再利用した体験型学習施設です。中高生コースのプログラム1・2日目は、講師である多摩美術大学の濱田芳治教授と尾形達准教授の指導のもと、子供たちがつくりたい生き物を決め、スケッチワークをした後、ダンボールやクラフト紙で模型(モックアップ)を制作。それをもとに、枝や葉など自然物を使った彫像制作に取り組んできました。制作にあたっては多摩美術大学の学生も素材の扱い方などをサポートします。

プログラム3日目は、制作場所の教室を離れ、多くの生き物が生息する森の中へと足を踏み入れます。森と生き物の関わりをフィールドワークを通して体験するのです。作品をつくるために、その対象を「リアルに知る」ことの重要性について、濱田教授はレクチャーの冒頭で次のように説明しました。
「生き物をつくる時に、素材となる自然物を実際に触るだけでなく、生き物が暮らす環境、つまり生物多様性豊かな高尾の森を体験することで、ニュースで聞く環境問題などがより自分ごととしてリアルに感じられるようになります。そこで今回は、立教大学で生物多様性を研究する奇二正彦先生にネイチャーガイドをお願いしました。立教大学の学生も協力してくれます」。
奇二先生は「今日のテーマは『テクノロジーと生物多様性の危機』です」と、少し難しい言葉で参加者に語り始めました。
「今、世界中の生き物がものすごいスピードで絶滅しています。それを止めるには、まず現状を知る必要がある。そこで今日は、皆さんにテクノロジーを使って、科学者の仲間になってもらいます」。
奇二先生は「iNaturalist」というアプリを紹介しました。これをインストールしたスマートフォンで生き物や植物の写真を撮ると、AIがその種類を同定してくれるだけでなく、そのデータを世界中の科学者と共有することができます。集められたデータは世界中の科学者の研究データとなり、生物多様性の保全計画に役立てられます。

「今日は、この高尾の森にどのくらいの種類の生き物や植物があるのかみんなで調べてもらいます。では、探索に行きましょう!」
奇二先生の言葉を合図に、子供たちは施設の外へ。まず目に飛び込んできたのはカツラの木。落ち葉を拾って匂いを嗅ぐと、キャラメルや綿菓子のような甘い香りが広がります。「マルトールという成分だよ」と先生が教えてくれました。五感で自然を感じます。
カツラの葉の上に小さな虫がいるのを見つけた奇二先生に促され、スマホをかざしてみます。パシャリ。アプリが示した名前は「アミガサハゴロモ」。あっという間に虫の正体が判明し、「おおー!」と歓声が上がります。
ビオトープ(生き物の生息空間)の周りでは、班ごとに分かれて本格的な調査がスタート。「草むらを足でガサガサやると、バッタなどの生き物が飛び出してくるよ」。アドバイス通りにすると、隠れていた虫たちが次々と姿を現しました。
生き物の名前がわかるたびに、「へー!こういう名前なのか」と、まるでゲームを攻略していくような 楽しさに、誰もが夢中になっていました。

木の幹の割れ目を覗き込むと、そこには黒と赤の模様の虫たちがびっしり!少し不気味な光景に驚きながらもアプリで調べてみると、その正体は「ヨコヅナサシガメ」の幼虫。集団で木の幹などで冬を越すという生態を奇二先生が教えてくれたことで、実際に見た生き物と森のつながりがわかり、点と点が線になっていきます。
調査を終えて教室に戻り、それぞれの班がアプリに登録した生き物や植物を集計したところ、なんと合計45種を発見したことがわかりました!
「素晴らしい結果です。この調査データを施設に提供し、役立てていただきます。皆さんの今日の活動が、この森の未来、地球の未来を守る一歩になるんです」。

次に、より実践的な活動として、「竹でドロバチの巣を作る」というミッションに挑戦します。

「イチゴやメロンが実るために大切な受粉をしてくれるハチたちが、昔ながらのすみかを失い、数を減らしています。そこで、僕たちが彼らの新しいおうちを作ってあげるんです。その材料には、今この里山で増えすぎて問題になっている『竹』を使います。竹林が暗くなると、クマやイノシシが人里に下りてくる原因にもなる。だから今日は、森の環境を整えるためにその竹を僕たちの手で切ってみましょう」と奇二先生が伝えます。
配られたのは、本格的なノコギリ、ナタ、剪定バサミ。奇二先生から「ノコギリは引くときに切れる」「持ち運ぶときは必ずカバーを」といった丁寧な使い方の説明や安全指導を受け、参加者たちの表情は少し緊張しつつも、これから始まる体験への期待に満ちていました。
軍手を着用して、急斜面を慎重に下りて竹林の中へ。足元は不安定で、頭上にはクモの巣がたくさん。「木の枝で前を払いながら歩くといいよ」という奇二先生から教えてもらったライフハックを早速実践します。

太い竹を切り倒すのは、サポート役の立教大学の学生スタッフたち。竹が倒れると、今度は参加者たちが握るノコギリで、扱いやすい長さに切っていきます。ギコギコという音、手に伝わる振動、鼻をくすぐる青い竹の香り。すべてが新鮮な体験です。
「竹を切るときは、下に木の幹を置くと安定して切りやすいよ」。先生のアドバイスを受けて実践する参加者の目は生き生きと輝いていました。ドロバチの巣作りのため切った竹を集めて運び、午前中の活動は終了。採取した竹は立教大学の学生スタッフの手で巣箱へと収められました。
自然を「知り」そして自ら「働きかける」。このリアルな体験が、午後の制作にどんな変化をもたらすのでしょうか。

自然の形から、インスピレーションを得る!

昼食を終え、午後からは作品制作に取り掛かります。教室には、笹や木の香りが充満していました。これらの材料は、あらかじめ多摩美術大学の学生スタッフたちが近くの森で採取してトラックで運び込み、虫が出ないように燻す処理を施してくれたもの。見えないところでの大変な準備が、このプログラムを支えています。

参加者たちは、それぞれの制作を再開します。手にした自然物は、ダンボールとは違い形作るのは難しく、枝は容易には曲がらず、葉はすぐに萎れてしまいます。

「ガビチョウ」という鳥をつくる参加者は、鳥が大好きだと話してくれました。葉が茶色く変色することまで計算に入れて、素材を選んでいます。「グリズリー(ハイイログマ)」制作に挑む参加者は、木の枝の形そのものからインスピレーションを受け、「このカーブは、後ろ足に使えそうだ」と、学生スタッフに相談しながら骨格を組み上げていました。

「自然物でつくるのは難しいけど、すごく楽しい。時間が経つのがあっという間です」と、ある参加者は言います。「それに、人工物と違って“匂い”がするんです」。それは、素材が「生きている」証拠なのかもしれません。
濱田教授は、教室内を巡回しながら的確なアドバイスを送ります。「その足は、この二点でしっかり固定すると安定するよ」「立体を自立させるためには、骨格の理解が重要なんだ」。
「自然物という扱いにくい素材で立体を表現する経験は、大きな自信になります。そして、物事の構造を理解し、課題を解決する“応用力”が身につくんです」と、濱田教授は話します。
難しいけれど、楽しい。うまくいかない、だから工夫する。参加者たちは、自然と対話し、格闘しながら、自分だけの形を見つけ出そうとしていました。

「カタチ」に命が宿る

制作最終日となる5日目。教室には、朝からピリリとした緊張感と熱気が満ちています。

「おはよう!」の声もそこそこに、集合時間より早く到着した子供たちが、黙々と作業を始めています。「完成させたい!」「うん、間に合わせよう!」。仲間同士で励まし合う声が聞こえます。
サポートの学生スタッフたちも、朝早くから森へ入り、追加で自然素材を調達してきてくれました。また、接着剤やコーティングとして使う動物性のニカワも、すぐに使えるよう、学生スタッフたちが溶かして準備してくれています。全員の気持ちが、作品の完成という一つのゴールに向かっています。

「キツネ」をつくる参加者は、毛の流れを意識しながら、ススキの穂を貼り付けていきます。「足は筍の皮、爪はドングリなんです」。素材の硬さや質感まで考え抜いた、見事な工夫です。
大型の「犬」に挑戦していた参加者は、「間に合うかな……」と不安を漏らしながらも、学生スタッフの助けを借りて猛然とラストスパートをかけています。モミの葉を一つ一つ着実に結い付けることで滑らかな曲線が生まれ、だんだんと生き物の形が現れてきました。

「ヤギ」には、立派なツノがつき、一気に生命感が増しました! 参加者は最後まで手を抜かず、作品に向き合い、こだわり続けます。

ついに、制作終了の時間。教室には、クジャク、レッサーパンダ、ロブスター、蚊…個性豊かな生き物たちの彫像がずらりと並びました。次はいよいよ、完成した作品をお互いに鑑賞する発表会です。

「観察眼」と「実践力」を養い未来のカタチをデザインする

発表会の冒頭、濱田教授は「自然物という、思い通りにならない崩れやすい素材を相手に、骨格から丁寧に構造を組み立てることで、素晴らしい作品が生まれました」と、このプログラムを総括。作品の大きさは様々ながら、細部の表情を追求した人、骨格の構造を深く探求した人など、それぞれの着眼点の多様性を称え、次のようにエールを送ります。

「立体造形感覚を養うことの本質は、自然環境問題のような巨大で複雑な課題に立ち向かうための基礎力を育むことにあります。環境問題のように、様々な事象が複雑に絡み合う問題に対峙するには、物事の細部まで見通す“観察眼”と、困難な課題に粘り強く取り組む“実践力”が不可欠です。自然物の構造を理解し、試行錯誤しながら形にするという一連の経験は、まさにその力を養う下地になると思います」。

続いて、尾形准教授が「制作の2、3日目あたりで、皆さんのアイデアが形になり始め、『もっと色々なことができるかもしれない』と可能性を感じられたのではないでしょうか。最後の仕上げは学生スタッフの力も借りましたが、そこまで“やり遂げたい”と思う気持ちが生まれたことが何よりも大事です。その探求心を、これからも持ち続けてください」と、参加者の今後の活躍に期待を寄せました。

最後に、濱田教授はこう締めくくりました。「これらの作品は、渋谷ヒカリエで多くの人に見てもらった後、この高尾の森に返します。自然から生まれ、やがて土に還っていく。この循環を感じることも、このプログラムの大切な体験です。サポートしてくれた学生スタッフたちも、まるで自分の作品のように熱心に取り組んでくれました。全員に、大きな拍手を」。

発表会を終えた子供たちは、このプログラムの体験を、こんなふうに語ってくれました。
「立体的な作品をつくるのは初めてで不安だったけど、すごく楽しかった。『ここが見せたいんだ!』という部分を強調できるのが面白い。濱田教授から『見る人の目線を誘導するようにつくるといい』とアドバイスをもらって、それはデッサンにも活かせると思いました」。

「最後までつくりあげることができて、感動しています。自分の中では100点の出来です! 絵を描くのは好きだったけど、こんなふうに彫像をつくるのも自分は好きなんだって、新しい自分を発見できました」。
このプログラムの名前である「Poiesis(ポイエーシス)」とは、ギリシャ語で「生産」を意味する言葉。それは、自然の中に隠れている豊かなものを無理をさせずそっと引き出してくるような、優しいアプローチを指します。5日間、彼らは自然と対話し、自らの手で新たな命を吹き込み、まさに「Poiesis」を実践しました。

渋谷ヒカリエ8/COURTで、「ファンタジスタ」の小中高生すべてのプログラムでの制作物を一堂に展示する成果作品展を開催!

11月7日(金)~9日(日)に「渋谷ヒカリエ8/COURT」で成果作品展が開催され、プログラムに参加した小中高生すべての制作物が一堂に展示されました。
一つ一つの作品には、それぞれが思い描く未来への願いが込められています。プログラムで育まれた想像力は、これからどんな世界を創り出していくのでしょう。

(取材・執筆:小原明子)

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